弊社では、毎月1回の割合で、不動産運用・不動産管理・不動産投資等の顧問契約者の皆さま向けに「The Capital Times」というカンパニーニュースペーパーを発行送付しております。
2019年3月19日に国土交通省から「2019年の公示地価」が公表され、「The Capital Times」3月号においては、『2019年公示地価から-今年の不動産市況―』というテーマで「市場考察」を掲載しました。
今回は、ご参考までに、昨年の同時期に掲載した「2018年の公示地価」についてご紹介させていただきます。最新の「The Capital Times」を読みたいや興味がある!という方は、弊社までお申し付けくださいませ。
2018年4月号「The Capital Times」(バックデータ/2018年4月発行掲載分より)
市場考察vol.27 2018年公示地価 -高値天井圏に達した不動産の将来像-
平成30年3月28日に国土交通省から平成30年地価公示(※1)の発表があった。
仙台においては、住宅地・商業地とも6年連続で上昇し、平均変動率は、住宅地で4.6%、商業地で8.7%となった。また、住宅地は、前年よりも平均変動率は上昇したが、商業地では上昇率の縮小がみられた。
全国的にも、全用途(商業・工業・住宅)で26年ぶりに上昇となり、0.041%のプラスだったという。仙台は、東北の拠点都市として、地方圏の中核4市(札幌・仙台・広島・福岡)に数えられているが、果たしていつまでこの状況が続くのか、天井はどこなのか等、今後の不動産市場の動向と将来像について考えてみたい。
※1・・・国土交通省の委員会が毎年1月1日の都市計画区域等において設定した標準地の「正常な価格」を公示するものである。そして「正常な価格」とは、公共事業用地の取得価格の算定時の基準とされ、一般の土地取引においても目安とされる。
1. 日本経済新聞の見出しから
公示地価の検証をする前に、まずは、今回の公示地価の背景を押さえておきたい。
『地価上昇 全国に波及』日本経済新聞の大見出しである。
サブタイトルでは、『地方、26年ぶりプラス』とある。金融緩和マネーが下支えし、訪日客の増加を受けてホテルや店舗の需要が増し、資産デフレの解消が進むとしている。
しかしながら、新聞をはじめ、その他のニュース記事等を読み進めていくと、これらはあくまで局地的な不動産価格の上昇が、下落地点の下落幅を吸収しているにすぎないことが明確になってくる。
東北圏に限ってみても、その傾向はより鮮明になっている。
※図表①「2018年公示地価の東北各県別変動率」
若干の上昇を示す福島県と宮城県を除く4県では住宅地・商業地とも変動率はマイナス圏となっている。特に秋田県においては、全国的に見てもその下落幅は上位に位置する。(※福島においては、原発事故とそれに対する補償金の手当などが現在の土地価格に反映しているものと考えられるが)
生活利便性の低下・人口減少・高齢化の進行する地域は、緩和マネーもインバウンドも影響しないのである。ただ単に下方向に進むだけである。これまで度々伝えている将来の人口推計から見ても、これらの地域・地区において、今後、変動率が上昇に転じていくことは考えにくいものである。
反面、今後、人口流入が見込める地域、教育・医療・福祉など生活環境や利便性の確保が見込まれる地域等については、一方的に変動率が上昇しているのである。一方的に変動率の下落を続ける地域、その反対にそれを上回る変動率で上昇を続ける地域がある。
それが現在の地価公示の姿ではないだろうか。
「資産デフレの解消が進んでいる」のではなく、「金融緩和をきっかけに二極分化が急激に進んでいる」ということだろう。
2.仙台圏の地価公示推移
次に、その二極分化のプラス組となる仙台市の地価動向について確認してみたい。
※図表②「公示価格推移と対前年変動率推移」
この表は、仙台市内のポイントとなる地点の公示価格とその変動率の推移をピックアップしている。
商業地域の「中央一丁目」と「一番町三丁目」では、この3年間、安定的に変動率が上昇している。また、住宅地では、八木山本町(東西線「動物公園駅」)において地下鉄東西線の開業に先駆け地価の上昇が始まり、地下鉄開業後は、その上昇変動率は低下傾向となっている。同じ地下鉄東西線沿線の「連坊二丁目」や「大和町三丁目」は、直近3年が上昇率のピークともとれる。
地下鉄南北線の長町地区と泉中央地区では、中心市街地の地価が急激に上昇したことにより、副都心としての位置づけとして2018年において変動率が急激に伸びたと考えられる。仙石線沿線及び近郊住宅地においては、平均的に上昇傾向を示しているということが言えるだろう。
仙台市の住宅地においては、基本的に鉄軌道のある地区と市街中心部に近い地区で地価の上昇が続く。さらに、新たな開発計画や中心市街地の変動率が高いことによる面的広がりによって、価格上昇を伴う不動産市場が形成されていると言えるだろう。
3.高値天井圏の形成と価格上昇の可能性
それでは、この傾向はいつまで続き、どこまで上昇していくのだろうか。
リーマンショック前と2017年、2018年の公示価格の比較から見てみたい。
※図表③「リーマンショック前との公示価格比較」
昨年の同時期の「The Capital Times」においては、リーマンショック前の公示価格との比較で、住宅地は、既にリーマンショック前を超えているものの、商業地においては、まだ上昇余地が残されているとした。
今回、2018年とリーマンショック前との比較において、商業地「青葉区中央一丁目」では、リーマンショック前の公示価格とほぼ同水準に達した。「一番町三丁目」はまだ八掛け当りで、それでも昨年よりもリーマンショック前の価格水準との差を詰めてきている。
金融緩和の影響を除外して単純に考えれば、商業地「中央一丁目」は、そろそろ天井圏に近づきつつある又は高値圏の横ばい期を迎えているともいえるだろう。ただ、賃料については、市街中心部のオフィス需要が高まりつつあるという向きも多くなってきているところ、金融緩和の継続や仙台駅前の再開発可能性を前提とした場合は、もう一段上の価格水準になる可能性もある。
住宅地においては、既にリーマンショック前の水準を超えていた価格水準がさらに切り上がりを見せ、住宅を取得検討している人や投資家が、生活利便性の高い地域や少しでも条件の良い土地を求めたいとする動きの背景が見えてくる。そう考えれば、今後、金融緩和が引き締められたとしても、条件の良い住宅地や事業用地に限っては、引き続き緩やかな上昇を示すことになるのではないかと考えている。
つまり、ここ仙台の住宅地では、地方や郊外地区における公示地価や変動率の下落とは反対に、人口減少が明らか(人が少なくなったと人が体感するようになる)になるまで上昇傾向が続くのではないかと考えている。金融緩和や経済活動を伴わない底堅い需要がこれを支えるものと考える。
4.中長期的な不動産市場を考える
仮に、現在の金融緩和がもうしばらく続いていくとするならば、不動産の二極化傾向はますます拡大することになるだろう。
投資家は、利便性が高く経済活動が活発なところへの投資を当然に望み、人々は、より生活利便性や医療介護福祉を享受できる地域を求め移動することになる。
地価下落が続くような地域・地区においては、人口減少と流出が止まらない。当然、交通機関の廃止や大手スーパーなどの大資本が抜け、長期的には、小さな市町村単位では行政が成り立たず、社会基盤は広域行政化に頼らざるを得ない。
それでも若年層の生産人口は、働くために少しでも経済状況が豊かな地域に移動し、移動できない者だけの資産課税を中心とする広域行政自治体が周辺地域に広がることになるのではないだろうか。
The Capital Timesの発行開始から3回目の公示地価の公表。
複利で考えれば、「仙台市若林区連坊」の住宅地は、この3年間で1.36倍の土地となった。一方、公示地価の変動率の下落が止まらない秋田県の住宅地では、下落変動率が縮小したと言っても3年前の92%の水準である。
一方の土地は、10,000,000円が13,600,000円に値上がりし、もう一方は9,200,000円に値下がりしたということである。
すでに同様の本やコラムも多く見られ、「もう十分に分かっているよ」と言う方もいると思うが、不動産投資家として中長期的な視点で「どこにどのくらいの投資を行うのか」、より慎重な検討と判断を要する時期にきている。
2018年の公示価格は、そんな背景がより鮮明になってきた公表結果だった。
(文責 飯川 則夫)
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